SHARE:

1989年 トヨタ・スターレット ターボS(EP71)|かっとび新スターレット、辛口ターボ

小さな車体に、少し刺激的なターボエンジン。
白いボディに刻まれた大きな「turbo」の文字を見ただけで、胸が高鳴った時代がありました。

1984年に登場した3代目スターレットは、それまでの後輪駆動から前輪駆動へ転換。広い室内と軽快な走りを両立し、1986年にはインタークーラー付きのターボモデルが加わりました。なかでも後期型のターボSは、出力を110PSまで高めた、EP71の集大成ともいえる存在です。

豪華なグランドツアラーでも、本格的なスポーツカーでもありません。
けれど、アクセルを踏めば小さな車体が元気よく飛び出し、いつもの道を特別な舞台へ変えてくれる。

今回は、1989年のトヨタ・スターレット ターボSを、当時の街やファッション、音楽、そして若者たちが見ていた夢とともに振り返ります。

かっとび新スターレット、辛口ターボ

白いボディ、ボンネット上のエアスクープ、角ばったヘッドライト。
スターレット ターボSは、小さく親しみやすい姿の中に、普通のコンパクトカーとは違う緊張感を秘めていました。

「かっとび新スターレット」「辛口ターボ」という言葉がよく似合う、軽くて元気な一台。大きさや豪華さではなく、運転する楽しさそのもので若者を振り向かせたホットハッチです。

正面から伝わる、ただ者ではない気配

正面から見ると、EP71ターボSの性格がよく分かります。

左右の角形ヘッドライトをつなぐフロントガーニッシュ。その中央には、小さくても誇らしげな「turbo」の文字。さらにボンネット上には、インタークーラーへ空気を導くスクープが置かれています。

派手な曲線や巨大なエアロパーツはありません。それでも、必要なものを必要な場所に置いた顔つきには、走りを意識したクルマだけが持つ凛々しさがあります。

夜の街は、小さなターボの舞台だった

仕事や学校が終わった夜。
お気に入りのカセットを入れ、特に目的地も決めず、ひとりで街へ走り出す。

濡れた路面に街灯やネオンが映り、小さなスターレットのヘッドライトが夜道を照らします。豪華なクルマでなくても、自分だけの運転席と自由に動ける時間があれば、それだけで十分でした。

少し遠回りして帰る。
ただそれだけのことが、若かった頃には小さな冒険だったのです。

横から見ると分かる、凝縮された軽快さ

短いボディに、立ち気味のキャビン。
横から眺めるEP71は、余分なものを削ぎ落とした、実に素直な3ドアハッチバックです。

大きなガラス面による明るい室内と、四隅に近い位置へ置かれたタイヤ。その姿からは、街中をくるくると走り回る軽快さが伝わってきます。

サイドを横切る「INTERCOOLER turbo」のデカールは、この小さなクルマが単なる買い物車ではないことを、少し得意げに物語っていました。

小さなボディを特別にした、辛口の装い

スターレット ターボSの魅力は、全体の形だけではありません。

ボンネットスクープ、専用サイドデカール、白いアルミホイール、そしてリアルーフスポイラー。ひとつひとつは控えめですが、それらが組み合わさることで、ターボSらしい引き締まった姿が完成しています。

後ろから眺めれば、角ばったテールランプとリアスポイラーが作る、少しやんちゃなシルエット。走り去る後ろ姿にも、1980年代のホットハッチらしい勢いが残っています。

乗り込んだ瞬間、走りたくなるコクピット

室内は、直線を基調にしたシンプルで機能的なデザインです。

視線の先にはオレンジ色の文字が浮かぶアナログメーター。手を伸ばせば届く位置にスイッチが並び、ドライバーが迷わず操作できるよう考えられています。

グレーを基調とした専用シートには、細かな赤と黒のストライプと「turbo」の文字。華やかではありませんが、座った瞬間に普通のスターレットとは違うことを感じさせる、当時らしい特別感があります。

週末、海と緑の道へ

晴れた週末には、助手席に大切な人を乗せて海へ向かう。

窓の外には青い海と夏の緑。小さな車内で交わす会話や、途中で立ち寄った展望台、自動販売機で買った冷たい飲み物までが、その日の思い出になりました。

スターレットは大きな荷物を積む旅のクルマではありません。
それでも、若いふたりにとっては、知らない景色へ連れていってくれる十分に立派な相棒だったのです。

小さな車体の中に詰め込まれた本気

エンジンルームに収まるのは、2E-TELU型の1.3リッター直列4気筒SOHC12バルブエンジン。インタークーラー付きターボを組み合わせ、後期型では最高出力110PSを発生しました。

さらに、過給圧を切り替えられる2モードターボを採用。状況に応じてターボの力加減を選べる仕組みは、当時の小型車としては十分に特別な装備でした。

足まわりはフロントにストラット式、リアにトレーリングアーム式のサスペンションを採用。軽い車体を生かした素直な身のこなしが、ターボの力を運転の楽しさへ変えていました。

1989年の日本――昼も夜も輝いていた

1989年、日本は昭和から平成へと移り、新しい時代の入口に立っていました。

4月には3%の消費税が導入され、7月には映画『魔女の宅急便』が公開。世の中の仕組みが変わり始める一方で、街にはまだバブル景気の明るさと、未来がもっと豊かになるという期待があふれていました。

ファッションは色や柄を楽しみ、友人たちは街へ繰り出す。グリコアのようなファストフード店も、買い物や待ち合わせの途中に立ち寄る身近な場所でした。

昼も夜も街はにぎやかで、若者たちは音楽とクルマと新しい流行に夢中になっていた。スターレット ターボSもまた、そんな活気の中を駆け回っていた一台です。

1989年のイギリス――音楽と個性が街を彩った

同じ頃のイギリスでは、音楽もファッションも、強い個性を放っていました。

1989年の全英チャートでは、カイリー・ミノーグがヒットを重ね、リヴァプール出身のソニアは「You’ll Never Stop Me from Loving You」で1位を獲得。Brosも若者から大きな支持を集めていました。

小さなケースを開くと精巧な世界が現れるポーリーポケットも、1989年に登場。持ち歩ける小さな夢として、後に世界中で愛される玩具となりました。

街にはデニム、チェック柄、ミニドレス、スカーフなどを自由に組み合わせた装いがあふれ、人々は自分らしいスタイルを楽しんでいました。

ページ下段に並ぶプジョー205 GTi、ルノー5 GTターボ、ボクスホール・アストラGTE。国籍や個性は違っても、小さな車体に走りの楽しさを詰め込むという点では、スターレット ターボSにも通じる仲間たちです。

小さなボディに、大きな楽しさを

小さくて、軽くて、よく回って、気持ちよく走る。

スターレット ターボSの魅力は、数字だけでは語り切れません。アクセルへ反応する車体の軽さ、ターボが力を増していく感覚、角ばったボディ越しに見える景色。そのすべてが、運転する人へまっすぐ届くクルマでした。

豪華ではなくてもいい。
大きくなくてもいい。

街へ出かけ、仲間と集まり、誰かを助手席に乗せ、知らない道へ向かう。そんな日常のひとつひとつを、少し特別な出来事へ変えてくれたのが、1989年のスターレット ターボSです。

あの頃のワクワクを、今も思い出させてくれる。

かっとび新スターレット、辛口ターボ。
ええ車やなあ。

造形浪漫帖の画像について

造形浪漫帖に掲載している画像は、当時の資料や実車写真を参考にしながら、そのクルマが走っていた時代や情景を思い浮かべて描いたイメージイラストです。
実車の形状や装備、街並みなどをできる限り大切にしていますが、一部の細かな部分は実物と異なる場合があります。
正確な記録写真というよりも、あの頃の空気やクルマの魅力を楽しんでいただくための作品として、やさしくご覧いただければ幸いです。

あなたへのおすすめ