日産 スカイライン HCR32 GTS-t|とんでもないが、とんでもいい。R32が示したスポーツセダンの完成形

1989年、平成という新しい時代の始まりとともに登場したR32型スカイライン。
歴代スカイラインの中でも「走り」を強く意識した世代として知られ、低く引き締まったボディ、FRレイアウト、そして直列6気筒ターボを組み合わせたGTS-tは、4ドアセダンでありながらスポーツカーらしい楽しさを持った一台でした。
今回紹介するのは、1989年式 日産 スカイライン HCR32 GTS-t。派手さで押すのではなく、シャープな造形と扱いやすいサイズ、そしてRB20DETが生み出す気持ちのいい走りで、今なお多くのファンを惹きつけています。
「とんでもないが、とんでもいい。」R32スカイライン

R32型スカイラインは、スポーティな方向へ大きく舵を切ったモデルでした。
HCR32型GTS-tは右ハンドルの4ドアセダンながら、その姿は実用車という言葉だけでは収まりません。低いボンネット、横長のヘッドライト、引き締まったフロントマスクによって、停止しているだけでも走りの良さを感じさせます。
当時のスカイラインらしい端正さを残しながら、余計な装飾を抑えたシンプルなスタイル。その潔さこそ、R32の魅力のひとつです。
直線を基調にした、低くスポーティな外観

横から見ると、R32のプロポーションの良さがよく分かります。
ボディは低く、前後のオーバーハングもすっきり。4ドアセダンでありながら腰高な印象がなく、ルーフからトランクへ続くラインも自然にまとめられています。
フロントはシャープで精悍。一方、リアには丸型4灯テールランプというスカイラインを象徴するデザインが採用され、後ろ姿だけでも「スカイライン」と分かる存在感があります。
派手なエアロパーツに頼らず、基本的なボディラインそのものが格好いい。そんな80年代末の日産デザインの魅力が詰まっています。
機能を優先した、ドライバー中心の室内

室内に入ると、外観と同じくシンプルで機能的な雰囲気が広がります。
運転席を中心にまとめられたインパネは、ドライバーが必要な情報や操作系へ自然に手を伸ばせる構成。豪華さを前面に出すというより、運転することを第一に考えた空間です。
アナログメーターも視認性を重視したオーソドックスなデザイン。現代の液晶メーターとはまったく違いますが、針の動きやエンジン回転を目で追いながら走る感覚には、この時代ならではの味があります。
4ドアなので日常で使える実用性を備えながら、運転席に座るとスポーツモデルらしさを感じられる。そのバランスもGTS-tの大きな特徴です。
RB20DETターボ――R32 GTS-tの心臓部

GTS-tを語るうえで外せないのが、直列6気筒ターボのRB20DETです。
2.0L直列6気筒という滑らかな回転フィールにターボを組み合わせ、回転を高めながら加速していく楽しさを味わえるエンジンでした。
現在では大排気量エンジンや高出力ターボも珍しくありませんが、R32 GTS-tの魅力は数字だけではありません。
直6らしいフィーリング、ターボが加わる感覚、そしてFRシャシーとの組み合わせ。エンジン単体ではなく、クルマ全体で走りを楽しませてくれるところに魅力があります。
まさに、RB20DETはスポーツセダンとしてのR32を支える心臓部でした。
4ドアなのに、走りはしっかり本気

HCR32 GTS-tのおもしろさは、スポーツカー専用ボディではなく4ドアセダンであることです。
普段は人を乗せたり、荷物を積んだりできる。それでいて、ひとたび運転席に座ればFRらしい素直なハンドリングとターボエンジンの加速を楽しめます。
「ターボの楽しさ」「FRスポーツの素質」「実用性と速さの両立」。
この3つが同じ車体の中に収まっていることが、GTS-tの個性でした。
GT-Rほど特別な存在ではなくても、日常とスポーツの距離が近い。だからこそ、GTS-tならではの魅力があります。
1989年、日本は平成という新しい時代へ

R32スカイラインが登場した1989年は、昭和から平成へと元号が変わった年でした。
街には高層ビルやネオンが増え、バブル景気の華やかな空気が漂っていた時代。ブランド品や高級車が注目され、夜の繁華街にはディスコやクラブ文化が広がっていました。
一方で、音楽はまだカセットテープで楽しむことが多く、映像といえばVHS。携帯電話も現在のスマートフォンとは程遠い、肩にかけるような大型タイプから少しずつ変化していた頃です。
「Diamonds」「淋しい熱帯魚」「世界でいちばん熱い夏」「Runner」など、今でも耳にするヒット曲が街に流れていました。
そんな新しい時代の空気の中に登場したR32スカイラインは、まさに平成初期の日産を象徴する一台だったといえるでしょう。
海の向こうでも育っていった日本車への憧れ

1980年代末のアメリカには、広大なハイウェイ、ダイナー、カセットテープから流れる音楽、そして自由なカーライフがありました。
当時、日本国内専用モデルだったR32スカイラインは、アメリカの街を普通に走っていたクルマではありません。
しかしその後、日本のスポーツカー文化が世界へ知られるようになるにつれ、R32という存在も海外のファンから注目されるようになっていきます。
直列6気筒、ターボ、FR。そして日本独自のスポーツセダン文化。
アメリカンカーとは違う価値観を持ったR32は、時代を越えて海外のクルマ好きにも強い印象を残す存在になりました。
まとめ――派手ではない。でも、そこがR32らしい
1989年式 日産 スカイライン HCR32 GTS-t。
GT-Rの存在があまりにも有名なR32世代ですが、GTS-tにもまた、このクルマならではの良さがあります。
扱いやすい4ドアボディに、RB20DET直列6気筒ターボ。そしてFRレイアウト。
通勤や街乗りにも使えて、休日には運転そのものを楽しめる。そんな日常とスポーツの絶妙な距離感が、このモデルの魅力です。
「とんでもないが、とんでもいい。」
その言葉どおり、大げさに主張しなくても、乗ればちゃんと楽しい。
R32 GTS-tは、平成の始まりに登場した、日産らしいスポーツセダンのひとつです。

